アラビアの夜の種族(全三巻)
かつてログアウト冒険文庫というラノべレーベルがあった。今のファミ通文庫の前身である。そこで古川日出男さんはデビューした*1。「砂の王」というウィザードリィの小説である。しかし不幸にして、レーベル自体の消失などの事情により一冊で途絶した。
だが氏は諦めなかったのだ。
ウィザードリィの世界を、アラビアンナイト風の世界でくるみこみ、更にそれを作中人物に語らせて作中作とし、その上自分はそれを翻訳したと言うスタンスにして、三重にメタ化した。この離れ業で、ウィザードリィを一般小説にしてしまったのである。ウィザードリィで日本推理作家協会賞と日本SF大賞をとってしまったのである。つまりウィザードリィなんて知らないよ、って人間に、ウィズを読ませてしまったのである。これってとっても凄い事だ。
文体はちょっとくどい部分もあるが、総じて流麗でまさに語りを聞いているよう。時々入る訳注なども小技が効いている。
ところで私、二巻を読んでいる最中、本を忘れてしまい、三巻を読み始めたりした。作中のイスマーイールと同じく、時系列をシャッフルして物語を読んだ。そうする事で、彼と同様、あるエピソードの結末を知りながら、過程を読み、どうしてそうなるのかを予測するという読み方になった。これはこれで興味深い読書体験だったので、他の人にもお勧めしたい。あとがきで謳われているように、この作品は時系列を無視した読み方のできるものだ。それだけの力を秘めた書である。
という訳でオススメ。ウィズを知っている人なら、色々ニヤリとできる部分もあり、更にオススメ。
ああ、それにしても原点となった「砂の王」で元ネタを確認したいなあ。友人に借りようかしら。
*1:文庫に書かれた経歴からは抹消されているが