やっぱり小川一水は架空歴史作家だと思うんだ「フリーランチの時代」

 小川一水さんのSF短編集……なんだけど、正直SFな最初の四編は凡庸だと感じた。SF短編というのは、ワン・アイディアをどこまで先鋭に研ぎ澄ましていくか、というものだと思う。その意味でこれら四編は思考実験的ではあるが、あくまで堅実なシミュレーションであり、ゆえにオチは予想の範囲内に着地してしまう。短編ならば、短編ならではの切り裂くようなセンス・オブ・ワンダー溢れるブレイク・スルーが欲しい。
 しかし小川一水の本質はそこにはない。堅実なシミュレーションこそ特質である。
 だから最後の短編「アルワラの潮の音」が好き。「時砂の王」の外伝である。ちなみに「時砂の王」の前提があるから好きなので、単体としては評価しづらい。黒幕の動機は凡庸だったしね。ともかく「未来人が過去に遡って、現地の人間と協力し強大な敵と戦う」、この設定に萌えざるをえない。「時砂の王」の感想で、一つの時代の話をもっとじっくり読みたい、と思ったが、それが叶えられた形だ。「時砂の王」はこういうスピンアウトがいくつでも可能な構造になっているので、定期的に書いてくれると嬉しい。
 個人的結論としては、小川一水にとって、SFはあくまで物語るためのガジェットであった方が面白い小説になると思う。目的ではなく手段であるべき。だから私は小川一水をSF作家とは思わない。氏は架空歴史作家だ。

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)