端正と地味は紙一重「M.G.H.―楽園の鏡像」
早すぎた越境作家・三雲岳斗のデビュー作の一本、積読から引っ張りだして読んでみた。
なるほど、端正なSFミステリ。
しかしこの「端正」さが三雲さんがイマイチ目立たない理由なんだろうなあ。換言すれば地味、という事だから。
無重力の宇宙ステーションで起きた墜落死。ネタは素敵なんだけど、SFだとふつーなんだよなあ。「星を継ぐ者」をどうしても連想しちゃうし、それと比較するとスケール感が…。謎がパラダイムシフトしちゃう「星を継ぐ者」に対して、「M.G.H.」はあくまで本格ミステリとして現実の物理法則内に着地する。これは作品の方向性の違いであり、優劣の問題ではないと知りつつ、SFのセンス・オブ・ワンダーには、やっぱり世界がひっくり返るような驚きを求めてしまう。
ふと夢想する。この作品がSF新人賞じゃなくて、メフィスト賞みたいな尖ったミステリ新人賞で出ていればもっと話題になったんじゃないか。それとも「理系ミステリ」に分類されて、森博嗣フォロワー扱いで終わっただろうか?
ところで、ヒロインが妙に田中芳樹っぽいなと感じた。主人公に積極的にアプローチしながら、実際の行動となると初心、という。こういうキャラ造形は久しぶりだったから、かえって新鮮だった。
三雲岳斗さんのミステリは好みっぽいので、他の作品も読んでみよう。積読の歴史ミステリ系か、「海底密室」を買うか。
という訳で、SF者よりも、むしろミステリ読みにオススメしたい佳作。
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旧宮殿にて 15世紀、ミラノ、レオナルドの愉悦 (光文社文庫)
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